「せんが抄」 51号より
自然の恵みと出会いに感謝をこめて
−都知事賞を頂いて−
兵庫 小坂通泰
梅雨もようやく明け、夏の日射しに山路の脇に添って流れる渓谷が煌めき、やがて木立も高く深く迫って渓流の先からは滝の落ちる音だけが響き渡ってきます。
渓流にかかる楓の枝の群に隠れるようにひっそりと佇んでいる小さな滝。青い滝壺に幾筋もの細い糸を、それも裾を広く分けて紡いで注ぐ様はまるで女神の華麗で清楚な乱舞にも見えます。
この度映え春東京都知事賞を頂いた作品「涼音」(りょういん)のモデルであり、涼やかな響きを奏で、マイナスイオンを放つこの滝は、兵庫県播磨一宮町の山懐から県西部を流れ播磨灘に注ぐ「揖保川」の源流にある通称「小滝」背丈は5〜6メートルほどの小さな滝です。
古くから多岐には神が宿るとされ、修験者の道場としてあがめられておりますが、「一宮不動十滝」のひとつに数えられるこの滝も、今なお修行場として引き継がれているようです。
(中略)
作品「涼音」の「竹紙(ちくし)」もまたこの揖保川源流の山麓で作られています。竹紙は各地にあるようですが、この竹紙は播磨一宮町に住まいする「田崎博和市」が此処の清水を選び、丹精込めて手漉きされたものなのです。
今まで素材や道具にそれほど深くこだわらなかっただけに、出会いに出会いを重ねて今、剪画の舞台でようやく魂を与えられてゆく「竹紙」という素材への思いはすこしずつ深まります。
竹紙について語りますときりがありません。いずれ別の機会に譲りますが、「自然の恵みや手作りの素材の味わい深さを知るべし」と諭されてもいるようで、今は受賞の重みと併せ、しばし感慨に耽っているところです。
(中略)
尚、この度の受賞に対し、皆様からお礼や激励のお言葉を頂戴いたしました。心よりお礼申し上げます。有り難うございました。