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 「せんが抄」 49号より

それは月夜野

東京 小沢直平

写真 月夜野教室

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(前略)

 何度目かの方たちは、思い思いの下絵を元に剪り始める。我々と講師陣は十名づつ位のグループにそれぞれ分かれ指導。技術的な面で、直線を剪る時、円を剪る時、コーナーの剪り方等、基本としての刀の角度や、力の配分は教えることができるのだが、それ以上に教わることの方が多いのです。
 それは強い収集力と持続力。大人も子供もである。私にとって細かい下絵は、見ただけでゾーッとするのにかなり細かい下絵に挑戦する姿勢。剪ることだけに摺れてしまった我々には、反省すること大である。(そんなことを感じている時、上州名物なのか外は突然のお天気雨。びっくり。三十分ほど大降りした後、すぐ止むのにまたビックリ。)私が初めて紙を切ったのは、すでに五十年近く前のこと。思い起こすにも、記憶も薄れ、忘れてしまったが、こんなにも真剣だったかと思うと、受講者の目を見ているだけで休憩をとる人は、誰一人としていない。剪り続けている。何が、そんなに集中力を持続させることが出来るのか?
 私にとってもう一つ月夜野に魅せられるのは自然。そして、そこにある色の豊かさ、季節ごとに変化するであろう山、樹と川、空展の色。深呼吸出来る空。また、そこに済む人の心。目を観るだけで東京では失せてしまった豊かさ、深さを感じさせてくれる。
 私は東京杉並、阿佐ヶ谷生まれだが、子供の頃、山こそ近所になかったが、まだまだ田園風景があった。現在は、吉祥寺に住み、平日は毎日、井の頭公園をあるくのだが、護岸工事された池の水は、絵の具の筆を洗った後の水のような色で死んでいる。昔は、水も澄んでいて、たっぷりの藻が深い緑色をしていて、目にやさしく写した。人の手を加え過ぎて作られた自然がそこにある。月夜野も昔から比べればかなり自然が薄れて来ているのだろうが、私の中にある“いつか見た風景”がまだまだ残っていて心を少年にもどしてくれる。嬉しい限りだ。
 剪画指導ということで、月夜野へ来させて頂くのですが、景色から、そして子供達が発してくれる大きな大きな、強い強い、気、パワーを全身で得させてもらっています。そこから、私は幾つになっても感受性を失うことなく、感性を豊かに保てる自分でいたいと思うのです。

(後略)

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